クラシックマウスを作ろう!(4) ~モータマウントとフレーム~
初めましての方は初めまして.
そうでない方はお疲れ様です.
今回はモータマウントとフレームの設計についてです.
前回は「ギアとホイール編」でしたね.
目次は以下の通り.
モータマウントの役割
モータマウントは文字通りモータを機体に固定する部品ですが,DCマウスにおいてはスパーギアとピニオンギアの軸間距離を維持する働きが大きいです.一般的なメカでもアクチュエータと伝導部品の距離を維持したり、調整できるように機構を作る必要があるので、部品設計の最も基本的な部分と言ってもいいでしょう.
マウスで用いられるモータマウントは様々なものが上げられます.
形状が様々なのはもちろんですが、3Dプリント造形、樹脂の切削、PCBの流用、板金外注等、実現方法もユニークです.金属切削はあまり見かけません.やはり加工の手間と重量増加が気にされるからでしょうか.(もしいたらすいません、不勉強でした)
また、マウントのどの部分にモータを付けるかも重要な部分となってきます.
これは前述した重心位置の調整もありますが、それは前後の話なので少し後回し.
左右に関しての話をします.
モータマウントに1717を固定すると、モータは材料力学で言うところの片持ち梁になります.簡単に図示してみます.(簡易なので詳細は省きます)
機体差はありますが,一般的に機体の重心は機体の中心に近いはずです.
また理想的な機体ではタイヤに垂直抗力が全てかかります.(二輪では無理なのはそれはそう)
このとき,モータマウントの両側に片持ち梁が2つあるような状態になります.こうすると反時計回りにモーメントが生じて,それが最終的には基板にかかります.基板はこれにより微小ながらたわみます.こうするとタイヤが若干浮き,得られるグリップが小さくなることが考えられます.
実際問題,基板の剛性とかを考えるとどこまで影響あるんだ???ってなりますがそもそも基板に負荷かかる時点でダメでは?って感じです.
理論的に問題となりそうなので避ける方法を考えましょう.
これは閉構造を取れば解決します.
モータを背中合わせにして全体で支える感覚です.
左右の曲げを相殺できるので,左右モータ配置に関しては背中合わせ推奨です.
一方,前後のモータ配置では若干特殊な配置が存在します.
第三の軸が存在する足回りですね.
二輪であれば2019年全日本クラシックマウス優勝機体「華金」がそれに当たります.
四輪では遊び歯車を入れることでモータを強引に後ろ,もしくは前にするという方法が取られていました.2018年度全日本クラシックマウス優勝機体「ExiaAlter」が代表ですかね.
また前のシリーズで述べた「キャンバー角」についてもモータマウントが関わってきたりします.トライしてみたい方はチャレンジしてみてください.
固定方法
さて,モータマウント,モータ,ホイール,そして基板.これらをどのように固定するのかが大事ですね.一般的には固定は様々なものがありますがマウスではねじ固定などが多い印象です.各項目ごとに見てみます.
「モータ・モータマウントの固定」
モータの固定方法はモータ自体に固定するため加工が施されているか否かで方針が変わってきます.
ジャンクモータではねじ部が無いため、モータマウントに圧入する方法が取られたりします。しかし1717ではモータ自体にめねじがあります。M1.6と微妙な規格ではありますが、こいつが使えそうです.
http://www.shinkoh-faulhaber.jp/wp-content/uploads/2013/06/JP_1717_SR_DFF.pdf
ただめねじを通じてモータ自体に全ての負荷がかかるのはお気持ち的に良くないので、マウントで力を少しでも受けられるようにしたいですね。
「ホイール・モータマウントの固定」
これは前述したかもしれないですが、軸をねじにしてナイロンナットでモータマウントとホイールを挟むように締結します.スペーサーの長さが適切であればいい感じに回ってくれるはずです.
マウントとホイールだけつけて、手で回してみてください.
手で摩擦を感じたら負けです.
正直回れば走りますが、両方同じぐらいに回るのが理想です.(それはそう)
「基板・モータマウントの固定」
ねじ止めすることが多いように感じます.これにはモータマウントにタップ切る人もいるようですが、ボクはM3の超低頭ねじとM3ナットで基板とモータマウントを挟み込むようにして固定しています.
樹脂部品へのタップは耐久性に難があるし、ここの固定は信頼度を上げないと様々な実験に耐えられないと考えてこのようにしています.M3を使っているのも信頼の問題です.
マウスではM2を使うのがよく見られます.シャフトと統一するメリットもあるのでそこはバランス感覚かと.ボクは「最初の機体は過保護に」設計するのでそのクセが出てしまっている部分です.
モータマウントの設計
ボクの場合は3DCADでのモータマウントの設計は以下の手順で行います.
まずスケッチにて
- スパーとピニオンのピッチ円直径を描き外接.(バックラッシ取るならここで)
- それぞれ軸部分にシャフト用の穴を開ける.モータ側は1717の軸が通るように、ホイール側はM2のねじがきっちり通るようにφ2ぐらい.(良くはないです)
- ホイールの最大円を記入してみる.
- 最大円が地面に接するように注意しながら外形を決めてみる.(基板の厚みを考えずにやらかす案件多数)
- 基板固定用のナットが入る空間を開ける.
- モータを固定するM1.6を好きな数だけ開ける.(1717の図面を見ながら)
ここまでやったら 押し出しして立体化してもいいのでは?
続いて追加工.
- ホイールにナイロンナットが入るようにざぐる.
- 1717を支えられるように少しざぐる.
ここのざぐり深さの決め方ですが、ホイールとピニオンギア、並びにモータ軸が干渉しなければなんでもいいと思います.
画像は失敗した現行犯です.おかわりいただけただろうか…?
ギアを切断すればなんとかなる ← そうしなくて済むように何とかしろ(自戒)
あとはM1.6ねじの長さがいい感じになるように逆方向からざぐります.
最後は基板固定用のねじ穴開けてください.
こんなところでいや、文章だけで分かるわけないだろ!!ってなると思います.
モータマウントの作り方に関しては
「苦しんで作るマイクロマウス」に懇切丁寧に書いてあるのでそっち参考にしてもいいかもしれませんね.
一応、ボクのやつを載せておきますね.
権限上はView Onlyのはずですが、別に流失しても問題ないでしょう.
このマウントだと他の二輪マウスに比べてかなり大きいイメージがあります.
他にも前回説明したホイールやファン、センサマウント等のCADがありますが、どれも改良の余地ありの問題作ばかりです.
最低限は満たしている気がしますが….
この記事はこの機体の反省をベースに作っているので、記事上とCAD情報が異なる点が非常に多くありますがご了承ください.
閉構造
さて、 モータを背中合わせにするところで閉構造だと嬉しいよねって話をしました.
ただこれは学術的にはあまり見られない単語ですね.
近い考え方は材料力学における閉断面が代表例だと思います.
閉断面と開断面では方向に対する強度が異なることは材料力学を学んだ(学ばされた?)人には良く知られていることだと思います.
閉断面の方が方向による強度のばらつきが少ないんですね.
ではマウスであらゆる方向に強度を持たせるのは何故か?
真っ当に考えると、理由はクラッシュ対策です.
調整され切ったマウスは壁に当たらない、と思ってる人がいるかもしれませんが開発中はバンバン壁に当たります.柱に当たります.加速度は10[m/ss]なんてザラです.
結構激しく当たります.
強度、欲しくないですか?
って理由です.
真っ当じゃない理由はヒューマンエラー対策です.
人間は機体を落とします.操作を誤ってではなく、酒に酔って落とすこともあります.
機体を落としてしまったので大会で走れませんでした.
「これほど悲しいことはない」
そんなわけで「重量が変わらないなら強度は盛るに越したことはない」です.
ちなみに直線番長と言われる社会人の方の新作マウスは
「壁に勝てる強度」
らしいです.(「勝つ」って何だよ…って方は思考が真っ当です、安心してください)
強度厨の方々は参考にしてみてはいかがでしょうか?
吸引をする設計
ここからは余談です.
吸引はかなり製作のノウハウ勝負になっている所なので僕自身もノウハウは足りていません.
かなり個人的な推察が入っているので鵜呑みにしないでください。
吸引機構に必要な機械部品は決して特殊ではありません.
主に、吸引ファン、吸引用モータ、フレームそしてスカートです.
このうち吸引ファンとフレームはホイールやモータマウントと同じ3Dプリンタが多いと思います.
実はこの辺りの設計だけはすごい曖昧になっています.
何故かというと、吸引の肝は「如何にして密閉状態に近付けるか」だからです.
吸引の仕組み自体は足回り考察の回で述べたと思います.図をもう1度見てみましょう.
現実とこの図の1番の差は何かと言ったら「基板下の圧力低下」です.
板マウスとはいえ、隙間からの空気流入を減らすのは並大抵でないです.この部分が(特に開発初期は)支配的であるが故にファンの形状やフレーム設計の影響が出にくいと考えています.もちろん、空気流入を一定ラインまで抑えられれば聞いてくるとは思います.
モータは印加電圧による回転数が高いほど嬉しいのでコアレス(CL)モータやブラシレス(BL)モータが多いです。ただ、BLモータは電流消費が激しいので最短走行までにバッテリー電圧がかなり下がってしまうとかしないとか。使っている人に是非聴いてみてください.
自分の場合は
フレームの役割は吸引モータとファンの固定がメインなので、それができればヨシ!
また、閉構造によってマウス自体の強度が上がるので吸引無しの機体でもフレームで左右のマウントを繋ぐ事は推奨します.
ファンは円板からただの板が生えてるイメージで設計してます.ただ、排気量に関わるのでスカートの次に工夫する所だと思います.
モータは…千石のアホみたいに安いCLモータを使ってます.モータ軸にダイレクトにファンを圧入しているのであんまり良いモータ使いたくないんですよね….
ちなみに空気流入を抑えるには単純に隙間を小さくするだけでなく、「乱流」を作るのがコツかと推測しています.大きいロボットで吸引する際にはバカ出力のBLモータで排気量を稼いで人工芝を逆にしてスカートとして使っている所もあるので、隙間が無ければいいってわけではないです.
いつかは流体力学を用いた理論ベースでシミュレートするのもやってみたいですね.表面粗さとかをパラメータ化して計算すればいいので流体の研究論文で既にありそうですが….
ボクの不勉強により、見つけてないです.
はてさて余談も長くなりましたが今回はこんな所で.ここまでで機械部品がかなり揃ってきたと思います.
次回は機械と回路を繋ぐ「基板外径と壁センサ配置について」の予定です.
気長にお待ち下さい.
それでは、また.