クラシックマウスを作ろう!(2) ~足回りを考える~
初めましての方は初めまして
そうでない方はお疲れ様です.
前回は目標設定と方針の話でしたが,今回は足回りを作るうえで
検討する事案をいくつか挙げてみたいと思います.
目次は次の通り.
二輪 or 四輪
マイクロマウスの操舵方式としては主に差動二輪と呼ばれる動作形式を取っています.
自動車に代表されるステアリング方式ではなく、戦車のように左右輪の速度差によって旋回する方式です.
スキッドステア方式と呼ばれており,建機などでこの形式を見る事があります.
差動二輪方式のメリットとしては
1.構造が単純
2.物理モデルが簡単
といったことが上げられます.これはシリーズのモデリングの回でまた詳しく述べますが、以下の図で表せます.
入力は
・左右のホイールの速度
出力は
・重心速度と旋回中心周りの角速度
ですね.
簡単そうですね.
しかし、現実的には任意での位置や姿勢を維持するのが難しい事で有名です.
また、差動二輪のモデルは「車輪が滑らない」という前提のもとに成り立ってますが、速さを求めるロボコンではタイヤが滑ります.
これは自動車工学の分野におけるスリップ角の概念を導入することでモデリングできるらしいです.スリップ角については以下に参照ブログを置いておきます.
参考
さて、マイクロマウスにおける「二輪」と「四輪」の区別は
リキッドステア方式で1つのモータにつき
ホイールが1つ -> 二輪
ホイールが2つ -> 四輪
って感じです.
しかし、この2つに関しては以下の特性の違いが上げられます.
(参考画像:ロボット製作のスケジューリング - まんぼーの技術記)
二輪はそもそも旋回しやすい特徴があるので旋回は素直です.
その分、直進でも制御をかなり入れないとまっすぐ走りません.
逆に、駆動輪以外の接地点が存在しない四輪は直進安定性が高いことで有名.
これが摩擦損失の低下に結びつくので直進などのエネルギー効率が二輪より高くなります.
四輪の旋回については「強引に曲げる」感覚だそうです.
モデル通りに回ることはないそうなので厳しい調整が必要です.
2019シーズンまでは四輪吸引機体が速さでは有利と思われていましたが、
2019全日本チャンピオンのあささんは二輪でした.
「結局、二輪四輪どちらがいいの?」という問いは答えが出ないと思います.
自分の宗教に従ってください.
(本シリーズではどちらでも参考になるように構成していますが、筆者は二輪しか作っていないです、参考までに)
重心位置と旋回中心
1717を使う上で大きな問題となってくるのが,モータ配置です.
これは二輪と四輪で異なってくると思いますが その根本的な考えは同じかと思います.
端的に,重心と旋回中心を近付ける事.
理想を言えば一致するのが好ましいです.
ここが旋回性能に効いてきます.
気になる場合は上のモデルで旋回中心と重心をズラして計算してみると
左右輪の速度や加速度(=力)が重心に対して成分分解されてしまい
運動に効いてくるのが雰囲気で分かると思います.
(まぁ気にしなくても旋回できると思いますが…)
また、重心位置を下げることが重要であることは車両の基本であると思います.
重心位置が高いと高速旋回時に機体がロールしてしまい、タイヤが得られるグリップが少なくなるのでスリップしがちな旋回になってしまうためです.
さて、ここまでを踏まえて重心の位置が重要であることが分かってもらえたと思います.
では、1717マウスで重い部品はなんでしょう?
何を隠そう、1717モータそのものと電源となるバッテリーです.
http://www.shinkoh-faulhaber.jp/wp-content/uploads/2013/06/JP_1717_SR_DFF.pdf
上のデータシートを参考にすると1717モータ1つで18 [g] の重さがあることが分かります.
これを2つ搭載するので計 36 [g] ですね.
クラシックDCマウスは概ね100 [g] 前後なので約35 [%]を占めています.
https://www.super-rc.co.jp/rc/product/view?id=33133
上のURLは自分が用いていた大きめのLipoバッテリーですが、重量は23 [g]です.
もう少し小型のLipoにしても約20 [%]を占めると思います.
これら2つのバランス配置を考えながら強い方々のマウスの設計を見ると
重心位置の工夫が見られると思います.
車高とスカート
クラシックマウスには次の様な規定があります.
ここには迷路内における隙間や段差が1 [mm]程度生じる可能性があることが明記されています.
したがって、機体のシャーシ(基板)と地面との高さは最低1 [mm]は空ける必要があります.ここでは大きく空けると重心が高くなってしまうため、自分は2[mm]ほどにしています.
ここで関わってくるのが吸引機構用(後述)のスカートです.
スカートの威力については参考をこちらに.
上記ではスカートが無い場合とある場合での比較がなされています.
このように吸引においてはファン形状よりもスカートの出来が大きな要素となっています.
スカートは厚みを稼ぐための1次スカート、隙間から空気が入りにくくする&床面との摩擦を低減する2次スカートに分かれています.
この材料については諸説あり、各々が個人のノウハウや宗教に基づいて決めているため明言はできません.
傾向としては、1次スカートには固い素材、2次スカートは柔軟でヒラヒラした素材が使われやすいようです.
グリップを求めて
ロボコンにおける天敵「すべり」に対抗するため、グリップを稼ぐための手段が考案されてきました.
その中でも、今回は「吸引機構」と「キャンバー角」について取り上げます.
・吸引機構
吸引機構は大気圧によるダウンフォースによってタイヤを押し付け、グリップを稼ぐ手法です.
吸引用モータにファンを装着して、扇風機のように回転させると空気が黄色の矢印のように移動します.
ここで前述のスカートによって空気が外から入ってくるのを妨げると、基板下部と上部で圧力差が生じ、基板全体が地面に押し付けられます.これによってタイヤが荷重抜けして浮いたりすることを妨げ、すべりを抑えます.
マイクロマウスでは上位者によくみられる機構で、機構重量に対してメリットが大きいとされています.
中には機体重量の2倍、3倍のダウンフォースを得る機体も存在するとか…
(吸引力だけで勝てる競技でもありませんが)
スカート等についてのノウハウが必要なため、開発にはコストがかかりますが費用対効果は抜群だと考えられます.
これはタイヤの接地面積を広くすることでグリップを稼ぐ手法です.タイヤをそのまま置くのではなく、斜めに配置して走行させると偏って削れていき、結果的に接地面積が広くなります.消しゴムを角から使うと角が丸まって、より広範囲が消せるようになるのと同じです.
元は自動車のサスペンションの個体差を考慮してポジティブキャンバーにしてバランスをとったりしていたようですが、上述のメリットを得るためにあえてネガティブキャンバーを取り入れたりすることがレーシングの世界であったようです.
これについての詳細は以下のブログの方が分かりやすいと思うので紹介までとさせていただきます.
これで足回りに関する検討事項は概ね終了です.
取り入れるにしろ、取り入れないにしろ知っておくことに価値があると思うので色々と紹介させていただきました.
本シリーズでは「最初の1台」を作る想定のため、ここまでの全てを考える必要はないと思いますが、上を見るに越したことはないです.
次回からは具体的な設計の話をしていきたいなと考えています.(いつになるのやら…)
では、また.